Kyrios Blog

 

「Snowflake中心指向」を掲げるイオングループの事例 | Snowflake World Tour Tokyo 2025レポート

Snowflake World Tour Tokyo 2025において、イオングループのデータ基盤変革の取り組みが紹介されました。本セッションでは、イオンスマートテクノロジーの櫻井良輔氏、イオンマーケティングの加藤真史氏が登壇し、「Snowflake中心指向」という新しい思想と、その実践事例が共有されました。流通業界最大規模の顧客基盤を抱えるイオングループが、なぜSnowflakeを選び、どのように全社的なデータ活用を推進しているのかを紐解きます。

 

 

背景と課題認識

イオングループは、年間14億人が利用する小売の巨大なエコシステムを支えています。グループ会社数は300、店舗数は2万、日々1億件の購買データが発生するスケールです 。この膨大なデータを利活用するために従来のオンプレや複雑化した技術スタックでは限界があり、限られたITリソースで持続的な運用を行うことが困難でした。

特に「多数の技術スタック = 悪ではないが、少ない人員で面倒を見きれない」という現実がありました。そのため、全体の最適化と「選択と集中」が強く求められていたのです。

 

アーキテクチャ思想とSnowflake選択の理由

セッションで繰り返し強調されたのは「データ基盤製品に銀の弾丸はない」という認識です 。つまり、特定製品だけですべての課題を解決するのは不可能であり、各社の強みを組み合わせながら“流用性のあるベタープラクティス”を選び取る必要があります。

その中でSnowflakeが選ばれた理由としては、以下の3点が挙げられました。

  • 導入のしやすさ
    徹底したSaaS思想に基づく設計で、スモールスタートから展開可能。
  • 守備範囲の広さ
    データウェアハウスを超えてAI・アプリケーション領域までカバー。
  • 採用実績の多さ
    エコシステムとしての広がりがあり、連携がしやすい。
     

Snowflake中心指向という新しい発想

イオングループが提示したキーワードが「Snowflake中心指向」です。これは データ収集から活用までの全工程をSnowflake上で完結させる思想 を意味します。

このアプローチにより、データが分散することなく「データに近い場所で処理する」ことが可能になり、余計な複雑性を回避できます。加藤氏は「複雑性はコスト」と明言し、Snowflakeの機能を使い倒すことが最適解であると強調しました 。

また、データを「原油」に例えた比喩も印象的でした。「データはそのままでは使えない。Snowflakeを活用し、精製してこそ燃料(価値)となる」と伝えられ、いかにデータを把握し、活用することがカギとなるのかを考えさせられました。

 

AI活用への示唆

AIについては「AIから得られる効果は、組織の能力に比例する」との見解が示されました。単に既存プロセスをAIに置き換えるのではなく、AIを前提とした新しいプロセス設計ができるかどうか が問われています。

さらに、ガートナーのレポートに触れつつ「RAG(Retrieval Augmented Generation)が幻滅期に入っている」と紹介し、AIそのものではなく「AIを活かせない組織側の課題」に目を向ける必要性を指摘しました。

 

将来への備え:Iceberg形式の採用

興味深いのは、Snowflakeへの依存一辺倒ではなく 可搬性確保のためにIceberg形式を採用 している点です。これにより、将来Snowflake以外のDWH(DatabricksやBigQueryなど)に移行する可能性にも備えています。Snowflakeを使い倒しつつも「脱Snowflake」も視野に入れた実践は、したたかな戦略といえます。

 

Icebergとは

Apache Icebergは、2017年に開発されたオープンソースのテーブル形式です。主な目的は、「データレイクに保存されている膨大なデータセットをクラウドストレージ(Amazon S3、Azure、Google Cloud Storageなど)上で効率的・安全に管理し、複数の分析エンジン(Spark、Trino、Hive、Flink、Prestoなど)から一貫してアクセスできる」ことです。

Iceberg自体はファイルフォーマットではなく、テーブルを論理的に管理するための仕様であり、データの保存・更新・削除・スナップショット管理などを担います。

参考: Apache Iceberg™ テーブル | Snowflake Documentation

 

 

まとめと学び

イオングループの事例は、単なる技術導入ではなく「思想の転換」としてのSnowflake活用を示しています。

  • Snowflake中心指向
    データ収集から活用までを一気通貫でSnowflake上で行い、効率とスピードを最大化する。
  • データに近いは正義
    複雑な外部連携は避け、処理をデータの近くで実現。
  • 備えとしての可搬性
    Iceberg形式を採用し、DWHベンダーロックインを回避。
  • AI活用は組織力次第
    技術よりも、AIを前提とした業務変革を進められる組織体制がカギ。

この実践は、自社がどの領域にリソースを集中すべきかを問い直し、Snowflakeを「単純にDWHとして使用する」ことから「データ活用の中枢」へと昇華させた好例だと感じました。

 

 

資料ダウンロード

データエンジニアリングサービス

Kyriosブログ新着記事

注目サービス


Kyrios 導入事例