データの民主化と自走型組織への変革 | Snowflake World Tour Tokyo 2025レポート
2025年9月11日、Snowflake World Tour Tokyo 2025のセッション「クラウドシフトはゴールではない:事例に学ぶ、“データの民主化”と“内製化”のリアル」に参加しました。本セッションでは、株式会社カプコンの宮永浩次氏と株式会社日立ソリューションズの林勇磨氏が登壇し、データ基盤のクラウド移行とSnowflake活用による実践事例が紹介されました。
事例の背景:ゲーム産業を支えるデータの重要性
カプコンは、売上の約74%をゲーム販売事業が占め、2024年には販売の90%がダウンロード経由になるなど、デジタル化が急速に進む企業です。しかし近年、ランサムウェアの被害により全データが暗号化され、復元不可能になるという深刻な事態を経験しました。この出来事が契機となり、データのあり方を根本から見直す必要に迫られたといいます。
当時はローカルのオンプレミス環境でデータを運用していましたが、膨大な変化に追従できず、AWSクラウドへの移行を実施しました。しかし、それだけでは日次で最新のデータを更新し続ける要件に応えることは難しく、Snowflakeの導入に踏み切ったとのことです。
Snowflake導入による変化
カプコンは日立ソリューションズと協力し、わずか1年と1四半期でSnowflake基盤を構築しました。Snowflakeの柔軟性を活かすことで、従来のようにシステム設計や手順書に縛られずとも、リカバリが可能な仕組みを実現しました。これは、従来の制約を逆手に取り、モダナイゼーションを加速させた好例といえます。
導入による主な成果として、以下の4点が強調されました。
- 高速DWHによるELTフロー速度の改善
データ処理の高速化で始業時間までに必要なデータを準備可能に。 - データマート整備によるレポート性能改善
利用部門の試行錯誤の余地が広がり、意思決定が加速。 - 生成フローの見直しによる運用のシンプル化
複雑化していた既存システムを整理し、維持管理コストを削減。 - Tableau移行によるコスト削減
BI環境を刷新し、可視化とコスト効率の両立を実現。
これらの取り組みにより、同社は経営レポートのスピードを飛躍的に向上させ、AI活用の基盤を得ることに成功しました。
気づきと示唆:自走型組織とデータ文化の構築
本セッションで特に印象的だったのは、「クラウドシフトはゴールではない」というメッセージです。クラウドに移行しただけでは真のデータ活用は実現できず、全社で共通利用可能なデータソースを整備し、誰もがデータを扱える文化を育てることが不可欠 であると強調されました。
従来の階層型組織ではなく、自走型の組織への変革が必要であり、初めて現場レベルでの迅速な意思決定や新しいアイデアの実装が可能になります。Snowflakeは、そのための土台を提供する存在だと位置づけられていました。このような動きは、「データの民主化」と呼ばれ、データ活用において重要な考え方となっています。
データの民主化
DX推進やデータ・AI活用の文脈で登場するキーワードとして、「データの民主化」があります。データの民主化とは、企業や組織内でデータのアクセスや活用を一部の専門家だけに限定せず、より多くの社員が自由にデータを扱えるようにする取り組みを指します。
従来、データはIT部門やデータサイエンティストなど限られた人々のものとされてきましたが、ビジネス環境の変化により、現場の社員が自らデータを活用して迅速に意思決定を行うことが求められるようになっています。
この変化は、技術やツールの導入だけでなく、組織文化の転換を意味します。データの民主化には、データを「共有財産」として捉え、部門や役職を問わず誰もが積極的にデータを利用し、意見やアイデアを出し合える環境づくりが不可欠です。データリテラシー教育や使いやすいツールの導入を通じて、専門知識がなくても誰でもデータを扱える体制を整えることが重要です。これにより、現場からのイノベーションや迅速な課題解決が促進され、組織の競争力向上につながります。
一方で、情報セキュリティやプライバシー保護、データの誤用防止への対応も欠かせません。明確なガイドラインと透明性の高い運用体制を整えることで、安心してデータを活用できる組織文化が定着します。
データの民主化は、単なる業務効率化にとどまらず、組織全体の価値観や働き方を根本から変革する重要なステップといえます。
まとめ
本セッションを通じ、データ基盤の整備は単なる技術導入に留まらず、組織文化や働き方の変革と一体で進めなければならないことを強く感じました。Snowflakeの導入によって、「データがある」状態から「データを使える」状態に変わり、経営や現場のスピード感に直結するのは大きな価値です。
同時に、カプコンが短期間で移行を成し遂げた背景には、ベンダーとの協働や「完璧な資料がなくてもまずは始める」姿勢があった点も印象的でした。
私自身、今後の業務で「データの民主化」を進める際には、単なるシステム刷新ではなく、社員一人ひとりがデータを武器にできる仕組みづくりを意識して取り組みたいと考えさせられました。