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「Agentic AI」でこれからの働き方再発明する:Keynote Day2 | AWS re:Invent2025現地レポート

昨日に続き、本日もAWS re:Invent 2025の 基調講演をご紹介します。基調講演「The Future of Agentic AI is Here」は、この問いに真正面から答えつつ、AWSが描く“AIエージェント時代”の全体像を示した内容でした。この記事では、講演内容をかみ砕いてまとめます。技術的な細部よりも、「結局これから何が変わるのか?」という視点で整理していきたいと思います。

 

 

エージェント的AIとは?チャットボットとの決定的な違い

講演ではまず、「エージェント的AI」の定義が語られました。エージェントとは、次のような性質を持つAIシステムだとされています。

  • デジタル環境を“感知”し、操作できる(APIやUIを自分で叩ける)
  • 「売上が落ちた原因を突き止めて」などの高レベルな目的を、具体的なステップに分解して実行する
  • 過去の経験から学習し、時間とともに効率や精度を高めていく

ここで示される対比がおもしろいのが、「チャットボットとの違い」です。

  • チャットボット
    「サイトのトラフィックが30%落ちた、なぜ?」と聞くと、「アナリティクスを確認し、最近のデプロイやログを調べてください」と“助言”をするだけ。
  • エージェント
    自動で分析ツールにつなぎ、落ちたページを特定し、デプロイ履歴を確認し、ログを調べ、原因となったコミットを見つけてチケットを切り、修正案まで提示する。

つまり「何をすべきかを教えてくれる存在」から、「実際に手を動かしてくれる同僚」に役割が変わる、というのがポイントです。

 

AIは“自動化ツール”から“チームメイト”へ

講演のキーワードのひとつが「Agentic Teammate(エージェント的なチームメイト)」という表現です。AWSは、「ゆくゆくは組織の一人ひとりが、1人ずつAIエージェントを持つようになるだろう」とまで言い切っています。

狙いは単純な工数削減ではありません。

  • 面倒なルーティンワークをエージェントに任せる
  • 人は「本質的な判断」「創造的な仕事」に集中できる
  • 結果として、新しいサービスやビジネスモデルを生み出せるようになる

講演では、「これまでのAIは個々のタスクの自動化にとどまっていたが、これからは産業全体の“共同作業”を加速するフェーズに入る」と語られています。

 

カスタマーサービスに見る、人とエージェントの共演

わかりやすい例として紹介されたのが、コンタクトセンター製品「Amazon Connect」とAIエージェントの連携デモです。

  • ユーザーが「身に覚えのないカード利用がある」と問い合わせる
  • 音声の裏側ではエージェントが、本人確認、利用履歴の分析、不正利用のパターン検知を自動で実行
  • 人間オペレーターは、すでに整理された情報をもとに会話に集中できる
  • 物理カードの停止と、Apple Pay継続利用のような柔軟な対応、さらに「より安全で特典の多いトラベルカード」への切替提案までをエージェントが支援する

ここで重要なのは、「人間を排除する」のではなく、「人とAIが同じお客様を一緒に支える」構図になっている点です。「人の共感や最終判断は依然として不可欠であり、それをAIが支える形を目指す」と強調されました。

 

エージェントを構成する3つの部品

エージェントは“賢い何か”ではなく、明確な構成要素を持つソフトウェアとして捉えられています。

<AIエージェントの構成要素>

  1. モデル(Brain)
    推論・計画・指示生成を担う大規模言語モデルなど。
     

  2. コード(Identity)
    エージェントの役割や人格、振る舞いポリシーを定義する部分。
     

  3. ツール(Tools)

    • バックエンドAPI
    • データベースやナレッジベース
    • SaaSや業務システムのUI など、エージェントが実際に“手を動かす”ためのインターフェース群。

従来は、これらをつなぐオーケストレーションが "「巨大なif文」と決め打ちのワークフロー"で書かれており、脆くて保守が大変でした。AWSはここを抽象化するオープンソースフレームワークを出し、数千行のカスタムコードを削減しつつ、より柔軟なエージェントを作れるようにしたと述べています。

 

実運用に持っていくときの“壁”とAWSの解き方

PoCレベルのエージェントと、プロダクション運用可能なエージェントの間には、大きなギャップがあります。Keynoteでは次のような課題が挙げられました。

<プロダクション運用可能なエージェントの条件>

  • トラフィックが0から数千セッションに一気に増えても耐えられるインフラ
  • 長時間動き続けるエージェントのためのセッション管理と隔離
  • 会話や操作履歴をまたいだ記憶(メモリ)
  • 組織の権限管理と連動したIAM(誰の代わりに何ができるか)
  • 社内外のAPI・DB・SaaSとの安全な接続
  • ログやトレースに基づく観測性とデバッグ

これを一から自前でやると、「PoCは動いたが本番には載せられない」といういつものパターンになりがちです。AWSはここにフォーカスし、既存のエージェントフレームワークやモデルと組み合わせて使えるマネージドの“エージェント基盤”を提供していると説明しています。

 

どうやって“信頼できる”エージェントにするのか:ニューロシンボリックAI

もう一つの大きなテーマが「信頼性」「安全性」です。

  • 大規模言語モデルは、複雑なルールや論理が絡むと間違えることがある
  • 悪意のある入力で簡単に誘導できてしまう
  • 送金や法令遵守が絡む場面で、LLMの“勘”だけに頼るのは危険

そこでAWSが持ち出したのが、自動推論(Automated Reasoning)という、論理学ベースの技術です。これは、AWS内部では10年以上、仮想化基盤や暗号・ネットワーク・IAMの安全性検証に使われてきた技術で、最近では IAM Access Analyzer や VPC Reachability Analyzer といった機能にも活用されています。

この形式手法とLLMを組み合わせたアプローチを、講演では「ニューロシンボリック(neurosymbolic)」と呼んでいました。

具体的には:

  • エージェントの出力(プログラムやAPI呼び出し)を論理式で表現された制約に照らして自動検証する
  • 制約に反する場合はLLM側に差し戻し、修正させる
  • 逆に、形式的に正しい例を学習データとしてモデルを鍛える
  • 推論中に「この回答はルールに反していないか?」を逐次チェックし、誤ったトークンを出さないよう“軌道修正”する

さらにポリシーの観点でも、自然言語で「本番アカウントではリソースの更新操作を禁止」といったルールを書くと、それをCedarという認可言語に変換し、形式検証で要件を満たしているかチェックできると説明しています。

エージェントを鍛える“ジム”とエピソード記憶

信頼性向上のために、学習プロセス自体も工夫されています。

  • 単なる「人間の操作の模倣(模倣学習)」だけだと、エージェントが自分の行動の結果を理解できない
  • そこで、CRMや人事システム、チケット管理などの業務環境を模した「ジム」を大量に用意し、そこで強化学習させている
  • 成功したタスクには報酬、失敗にはペナルティを与え、数十万回の試行錯誤で“本番に強い”挙動を身につけさせている

また、ユーザーとの長期的な関係性を扱うために、エピソード記憶(episodic memory)という新機能も紹介されました。

  • 過去のやり取りや特定の出来事を「エピソード」として保存し、類似シチュエーションでそれを思い出して、より適切な提案ができるようにする

たとえば「家族旅行では空港に早めに到着したい」という嗜好を学習し、次回の出張時に自動で最適な移動計画を提案する――といった使い方が想定されています。

 

現実世界のユースケース:海洋保護から宇宙開発まで

講演では、単なる構想ではなく、すでに動き始めている事例も多数紹介されています。

  • 海洋ごみの除去プロジェクトで、AIエージェントがプラスチック検知モデルを自動チューニングし、最も効果の高い清掃エリアを特定
  • PGAツアーで、エージェントを活用したマルチリンガル記事生成システムにより、コンテンツ作成速度を10倍にしつつコストを95%削減
  • ブルーオリジンで、社内の「BlueGPT」プラットフォームで複数の専門エージェントを連携させ、ロケット部品「T-REX」の設計を通常より75%速く、性能も40%向上させた

さらに、世界規模のコンテストでは137か国から9500人以上の開発者が参加し、都市のごみ問題を解決するために、市民のスマホを“ごみ検出ロボット”に変えるエージェントなど、実社会の課題に踏み込んだプロジェクトが多数生まれています。別のイベントでは、高校生たちが一日で5万以上のGenAIアプリを作り上げたというエピソードも紹介され、「誰もがエージェントを作り得る時代」が来ていることが強調されました。

 

企業にとっての本当の価値は「コスト削減」ではない

講演の終盤で語られたメッセージは、とても本質的です。

  • AIの“本当の報酬”は、単なる省力化ではなく、「まったく新しいサービス」「これまでにない顧客体験」「新しいビジネスモデル」を生み出せることにある
  • 変革の一番のボトルネックは、競合ではなく、「自分たちの働き方をどう再発明するか」という想像力かもしれない

そのうえで、AWS側からの示唆は次のようなものです。

  • エージェントの構想は、IT部門だけでなく「全員の仕事」として民主化する
  • アイデアを試せる“エージェントのアプリストア”のような場を用意し、多少カオスでも実験を回す
  • インフラや安全性、権限管理など“土台の難しいところ”はクラウドのマネージドサービスに任せ、ビジネス価値に集中する

 

まとめ:Agentic AIの未来は「すでに始まっている」

講演タイトルどおり、「Agentic AIの未来は“これから来る”のではなく、すでに動き出している」というのが全体を通したメッセージでした。

  • 誰もが自然言語でアイデアを伝え、エージェントが設計・実装・実行まで担う世界
  • 人とAIのチームが、これまで不可能だった規模とスピードで社会課題やビジネス課題を解いていく世界
  • そのための土台として、AWSはモデル・フレームワーク・インフラ・検証技術を揃えている

あなたの組織にとっての第一歩は、たとえば「一人一人の面倒な業務を肩代わりしてくれる、最初のエージェント的チームメイトを定義してみること」かもしれません。

基調講演は最後に、「エージェントは、誰もが“つくる喜び”を日常的に味わえる時代を連れてくる」と締めくくられています。この視点で仕事を眺めてみると、「どこからエージェントを入れてみようか」というアイデアが、いくつも浮かんでくるはずです。

 

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