DevOpsからAgentic DevOpsの時代へ | Microsoft Ignite 2025参加レポート
今回の Microsoft Ignite では、「Partner Making Agentic DevOps your Advantage」 というセッションに参加しました。本セッションでは、DevOps の進化と、AI がソフトウェア開発ライフサイクル全体へどのような変革をもたらすのかが具体的なデモを通じて紹介されました。
DevOpsは次の「Agentic」フェーズへ突入
現在、DevOps は AI を前提とした新たなフェーズへ進化しつつあります。
時代 | 特徴 |
|---|---|
DevOps(2009〜) | CI/CD の普及、人・プロセス・ツールを通した継続的価値提供 |
DevSecOps | セキュリティをプロセスに統合し、開発者がセキュリティ品質を担う文化へ |
Agentic DevOps(現代) | AI エージェントを前提とした自動化・並列開発・共同作業 |
登壇者は「DevSecOps は今なお企業の課題である」と触れつつも、複数 AI エージェントによる並列処理が次の飛躍点になると強調していました。
さらに開発者体験の進化として、Copilot の歴史は次のように整理されました。
- Gen.1:Codex によるコード補完(AIが“補助”)
- Gen.2:Agent Mode(自然言語チャットでの開発支援)
- フェーズ3:AI が人と協働し並列でコードを生成する世界
デモでは、1つの Issue を元に 3つのテーマ(ダーク/ライト/モダン)の UI を AI が並列実装し、Pull Request を自動生成する様子 が紹介され、AI が“チームメンバー化”している未来が非常にリアルに感じられました。
AI が DevOps の各フェーズに深く入り込む
セッションでは、AI が DevOps ライフサイクル全体にどのように統合されつつあるかが整理されました。
Plan(企画・要件定義) |
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Code(開発) |
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Test(テスト) |
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Deploy(デプロイ) |
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Operate(運用) |
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Optimize(最適化・改善) |
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これらの要素が一気通貫で AI と連携することで、従来は人手に依存していたプロセスの多くが“半自動化”されていることが分かります。
GitHub / VS Code / Visual Studio の最新AI機能
今回のIgniteやGitHub Universe 2025では、以下のような最新AI機能が発表・デモされました。
- Agent HQ複数のAIエージェント(GitHub、OpenAI、他ベンダー)を一元管理するハブ。
- Copilot Metricsどのモデルがどれだけ使われているか、開発者がどれだけCopilotを活用しているかを可視化するメトリクスダッシュボード。
- VS CodePlanモードやAI Toolkitによるモデル比較・AIアプリ開発支援。
- Visual Studio 2026パフォーマンス改善、新UI、デバッグ・プロファイリングエージェントなどの“Agentic”機能。
- .NET関連Aspireによる分散アプリ構築支援、PolyglotなAI活用機能。
- Advanced Security / Cloud実行時コンテキストを考慮したセキュリティ検知、プライベートマーケットプレイスでのエクステンション配布。
Microsoft社内でのCopilot導入——現場のリアル
後半では Microsoft 社内での AI 導入経験から、組織が直面しがちな課題と、その克服方法が共有されました。
Microsoft が直面した課題
- マインドセットの転換
開発者は「AIの精度」「本当に生産性が上がるのか」「セキュリティ面は大丈夫か」といった懸念を持っています。Copilotは、「AI は“置き換え”ではなく“生産性向上のための能力拡張”である」と再定義。シニア開発者やリーダー層が率先して使い、その価値を伝えることが重要です。 - オンボーディングの設計単に「ライセンスを配る」だけでは使われません。セットアップ方法や使い方、実業務との関連を分かりやすくガイドする必要があります。Microsoft内部では、トレーニングやハンズオン、FAQの整備、チームごとのローカルチャンピオン(相談役)設置、オフィスアワーでの質問受付など、具体的な支援策が展開されました。
- 利用シナリオの明確化「どの場面で、何に使うべきか」が分からないと定着しません。テスト作成、既存コードのリファクタリング、ドキュメント作成など、日常的に使える具体的ユースケースを提示し、実際の開発タスクに紐づけて「価値が見える体験」を提供することが重要です。
<成果測定と改善>
KPIは個人の生産性(例:タスク処理時間、コードレビュー負荷)、チーム/組織レベルの開発スループット、開発者の満足度・ツールへの信頼など、少なくとも3つの観点で設定。数字だけでなく、「どこに価値を感じているか」「どのユースケースが特に効いているか」を定性・定量両面で確認し、四半期ごとにレビューして改善を繰り返しています。
AI導入の推奨事項
AIやCopilotの導入を社内外で成功させるためには、単なるツールの配布に留まらず、実際の活用シーンや成果を明確に示すことが重要です。
- デモの活用による強みの明確化単なる説明ではなく、実際のデモを通じて自社の技術力やAI活用の強み(Capability)を具体的に示すことが必要です。たとえば、Copilotを使ったコード生成や自動テストの流れを実演することで、開発現場における生産性向上や品質改善のイメージを伝えやすくなります。
- テストケースによるAIの有効性の説明AIの効果を納得してもらうには、実際のテストケースやユースケースを用いて説明することが有効です。たとえば、既存コードのリファクタリングやテスト自動化など、日常業務に即した具体的な事例を提示することで、AI活用のメリットや実用性を理解してもらいやすくなります。
- インパクト測定とROI(投資対効果)の可視化AI導入によってどれだけ業務効率が向上したか、どの工程で効果があったかなど、定量的なデータ(KPI)をもとにインパクトを測定し、ROIを可視化します。例えば、タスク処理時間の短縮やコードレビュー負荷の軽減など、具体的な成果をダッシュボード等で共有することで、経営層や現場の納得感を高めることができます。
- 顧客の成功事例(Customer Wins)の収集と展開実際にAI活用で成功した顧客事例を集め、社内外で積極的に展開することも大切です。成功事例は、他のチームや顧客にとって有益な参考情報となり、導入のハードルを下げる効果があります。また、事例をもとにユースケースやベストプラクティスを体系化し、組織全体でノウハウを共有することで、AI導入の定着・拡大につなげることができます。
これらの推奨事項を実践することで、AI導入の効果を最大化し、開発現場や組織全体での定着を促進することができます。
所感
今回のセッションを通じて、生成AIが単なる補助ツールではなく、実際に“開発チームの一員”として機能する時代が到来していることを強く感じました。すでにCLI系のコーディングエージェントやDevinのようなAIエンジニアを活用している現場では、AIがコード生成だけでなく、テスト自動化やセキュリティチェック、運用フェーズでの障害検知など、幅広い工程に関わっています。これまで人間が担っていた反復的な作業や意思決定の一部をAIが肩代わりすることで、開発者はより創造的な業務に集中できる環境が整いつつあります。
今回紹介されたAgentic DevOpsの進展により、企画・設計・実装・テスト・運用のすべての工程でAIエージェントが自律的かつ並列に動く未来は、もはや遠いものではありません。AIと人が協働することで、開発現場の生産性や品質がさらに向上し、従来の開発プロセスが大きく変革されていくことを実感しました。今後、こうした新しい開発スタイルがどのように定着し、進化していくのか非常に楽しみです。







