Databricks World Tour Tokyo 2025 現地レポート:データインテリジェンスが企業全体の“働き方”を変える未来
2025年11月28日に開催された Databricks DATA + AI World Tour Tokyo に参加しました。今年は昨年以上に 「データとAIをどう統合し、企業の生産性を底上げするか」 が明確なテーマとなっており、その中心に位置づけられていたのが Data Intelligence(データインテリジェンス) です。
本記事では、特に印象に残った以下のポイントをまとめます。
- 最近の潮流と課題
- Data Intelligence Platform(DIP)の全体像
- Lakebase がもたらすアプリケーション進化
- Agent Bricks による AI エージェント運用
- Data Intelligence(AI/BI)の最新動向
- 国内大企業の最新事例(MUFG / Cosmo Energy など)
目次[非表示]
- 1.1. 最近の潮流:AI、ガバナンス、モダナイゼーション
- 2.2. データインテリジェンス時代:Data Intelligence Platformとは?
- 2.1.DIPが解決する課題
- 2.2.DIPの特徴
- 3.3. Lakebase:アプリケーションが“賢くなり続ける”基盤へ
- 3.1.Lakebaseとは?
- 3.1.1.AIが直接アプリのデータを書き換える時代へ
- 4.4. Agent Bricks:AIエージェントの“本番運用”を支える基盤
- 4.1.Agent Bricksとは?
- 5.5. Data Intelligenceの実装:AI/BIが組織の意思決定を変える
- 5.1.AI/BIの進化ポイント
- 6.6. 国内事例:MUFG(三菱UFJ銀行)が語った“AI Ready基盤”
- 7.7. Cosmo Energy:DXは“自分ゴト化”できるか
- 8.8. 総括:2025年は“AIがデータを直接扱う”時代の幕開け
- 9.資料ダウンロード
- 9.1.DWHサービス比較表
- 10.データエンジニアリングサービス
1. 最近の潮流:AI、ガバナンス、モダナイゼーション
AI/生成AIの勢いはさらに加速
企業はすでに“AIを前提に業務を設計し直す段階” に進んでいます。
ただし現場では次の課題が依然として重い状況です。
- データ利用コストの増大
- 独自実装(企業内部で構築された独自の仕組み)によるロックイン
- ガバナンス構造の複雑化
AI導入が進むほど、これらの基盤課題が顕在化している印象でした。
セキュリティとガバナンスの重要性が急上昇
AIが業務へ深く入り込むほど重要になるのが、「誰が・どのデータに・どこまでアクセスできるか?」 の制御です。
この中心に位置付けられていたのが Unity Catalog(UC) でした。
Unity Catalogとは?
Unity Catalog は、Databricks のデータとAI資産を一元管理するガバナンス基盤です。
テーブル・ファイル・ノートブック・MLモデルを統合管理し、権限やリネージを標準化します。
AIエージェントのアクセス制御も担い、安全なデータ活用の要となる仕組みです。
https://www.databricks.com/jp/product/unity-catalog
モダナイゼーションは“データ×AI×アプリ”の一体化へ
これまでの「データウェアハウス刷新」といったレベルではなく、データ基盤 × AI基盤 × アプリ基盤 を一体で再定義する動きが主流になっています。Databricks はこの領域で急拡大し、現在は次のような大規模な組織となっています。
- 従業員:5,800名以上
- 顧客:20,000社以上
- アジアパシフィック社員数:1,000名以上
- 日本での成長率:80%超
- アジアパシフィック地域のパートナー数:1,000社以上
2. データインテリジェンス時代:Data Intelligence Platformとは?
キーノートで最も強調されたのが “Data Intelligence Platform(DIP)”。これは Databricks が提唱する データ・AI・ガバナンス・エージェント運用を一体化した企業基盤 を意味します。
DIPが解決する課題
企業現場では、以下のような課題が依然として深刻です。
- 部門ごとにデータが散在し、活用できない
- AIが必要なデータへ安全にアクセスできない
- 部門ごとにガバナンスが異なる
- 高コスト・独自実装ロックインで刷新が困難
DIPはこれらを “まとめて解決する統合アーキテクチャ” として設計されています。
DIPの特徴
- オープンフォーマットで独自実装ロックインを排除
- すべてのデータ(構造化/非構造化)を統合
- Unity Catalog によるガバナンス統一
- AI活用前提のアーキテクチャ
- 外部基盤との フェデレーション(連携) を標準サポート
これらにより、「データとAIが常に接続され、企業全体で価値を生み続ける状態」を実現するのが DIP の目指す世界です。
3. Lakebase:アプリケーションが“賢くなり続ける”基盤へ
今年の発表で最もインパクトがあったと感じたのが Lakebase でした。
Lakebaseとは?
Lakebase は Databricks が提供する「レイクハウスのためのフルマネージド PostgreSQL」。
従来分断されていた OLTP(アプリDB)と Lakehouse をシームレスに統合し、
アプリとAIがリアルタイムでつながる次世代アプリ基盤です。
https://www.databricks.com/jp/product/lakebase
AIが直接アプリのデータを書き換える時代へ
会場デモでは、「AIにコーヒーを注文→Lakebase のテーブルが即更新」という未来的なアプリ動作が披露されました。これにより、以下のような従来の制約を一気に解消することができます。
<Lakebaseで解消できること>
- レガシーアーキテクチャに起因するロックイン
- ETL/同期コスト
- リアルタイム反映の限界
この分断を解消し、“アプリがデータを通じて継続的に進化する”という新しい世界観を提示していました。
4. Agent Bricks:AIエージェントの“本番運用”を支える基盤
AIエージェントは急速に広がっていますが、本番運用には課題が多くあります。
- 精度の揺らぎ
- コスト管理
- 想定外動作
- 業務特化エージェントの乱立
Agent Bricksとは?
Agent Bricks は Databricks が提供する「企業向けAIエージェント運用基盤」。
Unity Catalog と連携した権限管理、スーパーバイザーによるエージェント制御、
コスト・品質の最適化など、本番環境で安心して AI を運用するための仕組みが統合されています。
https://www.databricks.com/product/artificial-intelligence/agent-bricks
<Agent Bricksの特徴>
- スーパーバイザーによる“マルチエージェント制御”
複数エージェントを束ね、タスク配分や品質管理を担います。
- ユーザー権限の“代理認証”
AIエージェントが、SQL実行・ノートブック実行・ジョブ起動を行う際、Unity Catalog のユーザー権限を引き継ぐ ため安全性が高い。
- 自動最適化
精度・コスト・スキル切替を自動調整し、運用負荷を大きく軽減します。
5. Data Intelligenceの実装:AI/BIが組織の意思決定を変える
DIPの概念は「基盤」で終わりではなく、データ活用・BI活用そのものを再定義する取り組み にも展開されていました。
AI/BIの進化ポイント
- ダッシュボード利用が +500% に増加
- 自然言語でインサイトを提示
- “質問を想定して前処理する”従来BIの限界を突破
- Genie によるデータ対話が中心に
- 6月発表の Genie Research Agentが「Why/How」を説明できる
Databricks は “データを見る”から“データと会話する”という新しいBI体験へ移行しつつあります。
6. 国内事例:MUFG(三菱UFJ銀行)が語った“AI Ready基盤”
MUFGは Databricks を 全社AI分析基盤 として採用し、強力な成果を示していました。
- データサイエンティストの生産性:+45%
- ETL処理時間:55%削減
- 環境スペック変更:10日 → 即時
- 基盤コスト:60%削減
- 環境払い出し工数:90%削減
- 業務適用:50件超
- 累計PoC:140件以上
非常に再現性の高い事例で、国内企業の指針となる内容でした。
7. Cosmo Energy:DXは“自分ゴト化”できるか
Cosmo Energyは、組織全体でDX/AI活用を推進していました。
<組織横断の取り組み>
- DXアンケートによる全社員コミュニケーション
- 人事と連携したスキル可視化
- DX研修によるリテラシー向上
- DXフォーラムでの事例共有
<成功のカギ>
- 現場と経営、PMO、パートナー、DX/IT部門が近くで協力できたこと
- OSS志向の高速展開
- 小さく始めて広げるアプローチ
「AIの価値を阻むのは“慣れたやり方を変える勇気がないこと”」
という言葉が印象に残りました。
8. 総括:2025年は“AIがデータを直接扱う”時代の幕開け
今年のキーノートを通じて明確になったのは、“AIとデータが完全につながるフェーズに入った” ということです。
- Lakebase によるアプリケーション進化
- Agent Bricks によるAIエージェント運用基盤
- Data Intelligence Platform による統合アーキテクチャ
- Unity Catalog による全資産ガバナンス
- AI/BI による意思決定の変革
- 国内大企業の実践事例
2025年は、“AIを導入する年”ではなく、“AIを業務に組み込み、組織が変わる年”として記憶されるかもしれません。














