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【教育現場のDXを支える新しいセキュリティモデル】SASE徹底解説

自治体の教育委員会や教育関連ベンダーにとって、クラウドサービスやリモートアクセスの普及に伴う情報セキュリティ強化は喫緊の課題です。従来のVPNやファイアウォールだけでは守りきれない領域が広がる中、「SASESecure Access Service Edge)」という新しいネットワーク・セキュリティ統合モデルが注目されています。本記事では、SASEの基本概念から構成要素、代表的な製品、導入メリット、実際の導入ポイント、そして今後の展望まで、教育現場のDX推進に役立つ視点でわかりやすく解説します。

 

 

SASEとは何か

SASE(Secure Access Service Edge)とは、ネットワークとセキュリティのさまざまな機能を一つにまとめて、インターネット経由でサービスを供する新しい仕組みです。これにより、場所や端末を問わず、誰でも安全かつ快適に学校や教育委員会のシステムや、クラウドサービスを利用できるようになります。従来はネットワーク機器やセキュリティ対策をそれぞれ個別に導入・管理する必要がありましたが、SASEを使えばこれらを一元的に管理でき、運用の手間やコストも大幅に削減できます。

 

校務DXの課題とSASEが求められる理由

教育現場では校務支援システムや学習支援ツールの導入が進んでいますが、多くの自治体では自前サーバーと閉域網に依存し、端末も職員室に固定されるなど、柔軟な利用が難しい状況です。GIGAスクール構想や働き方改革により、クラウドサービスの活用や多様な働き方が求められる中、従来のネットワークやセキュリティ対策だけでは十分に対応できない課題が顕在化しています。

参照:「GIGAスクール構想の下での校務DXについて~教員の働きやすさと教育活動の一層の高度化を目指して~(詳細版)」(PDF)

こうした課題を解決する新しい仕組みとして注目されているのが「SASE(Secure Access Service Edge)」です。SASEは、ネットワークの最適化技術(SD-WAN)と高度なセキュリティ機能を統合し、校務や学習支援システム、クラウドサービスへのアクセスを場所や端末を問わず一元的かつ安全に管理できるようにします。SASEの導入によって、学校や教育委員会は、従来の制約から解放され、クラウドサービスを安全かつ柔軟に活用できる新しい校務・学習環境を実現できます。

SASEとゼロトラストの関係

SASEの根幹には「ゼロトラスト」の考え方があります。
ゼロトラストとは、「何も信頼せず、すべてを検証する」セキュリティ原則です。これにより、ネットワークの内外を問わず、すべてのアクセスを厳格に認証・監査します。SASEはゼロトラストの実現手段として、ネットワーク・セキュリティ機能をクラウドベースで統合し、ユーザーの利便性と安全性を両立させる概念です。

SASEの構成要素

SASEはさまざまな機能を組み合わせて提供されるサービスですが、その中身を具体的に知ることで、自分たちの現場にどのように役立つかイメージしやすくなります。ここでは、SASEがどんな機能を持ち、それぞれがどのように教育現場の安心・安全なICT活用を支えているのか、ネットワーク系とセキュリティ系に分けてご紹介します。

ネットワーク系コンポーネント

SASEが実現する「安全で快適な通信環境」の土台となるのが、ネットワーク系の機能です。教育現場では、複数の学校や拠点をつなぎ、日々大量のデータや教材がやり取りされています。こうした通信をより速く、安定して、効率よく行うために、SASEは以下のさまざまなネットワーク技術を組み合わせて提供しています。

  •  SD-WAN(Software-Defined WAN)
    ネットワークの通信経路を自動で最適化する技術です。たとえば、校舎や委員会本部など複数の拠点間の通信を、状況に応じて速く・安定した経路に切り替えることができます。SD-WANは複数のインターネット回線や拠点を賢く使い分けて、より速く安定した通信を実現します。

  • WAN最適化
    広域ネットワーク(WAN)の通信品質や速度を高める機能です。大規模なネットワークでも遅延や通信障害を減らし、教育現場の円滑な業務を支えます。

  • CDN(Contents Delivery Network)
    動画教材や大容量データを、全国の学校や拠点に効率よく配信する仕組みです。よく使うデータを近くのサーバーに保存して、アクセスを速くします。

これらの機能により、教育現場で必要な情報や教材が、どこからでも安定して利用できるようになります。

セキュリティ系コンポーネント

SASEは、ネットワークの安全性を高めるため、複数のセキュリティ機能をまとめて提供します。主な機能は以下の通りです。

  • CASB(Cloud Access Security Broker)
    クラウドサービス(例:Google WorkspaceやMicrosoft 365)の利用状況を見守り、不正利用や情報漏洩を防ぐ仕組みです。

  • SWG(Secure Web Gateway)
    インターネットの危険なサイトや不正なコンテンツへのアクセスを自動でブロックし、安全な利用を支援します。

  • ZTNA(Zero-Trust Network Access)
    利用者ごとに細かくアクセス権限を設定し、必要な人だけが必要な情報にアクセスできるようにする仕組みです。これは「何も信頼せず、すべてを検証する」というゼロトラストの考え方に基づいています。

  •  FWaaS(Firewall as a Service)
    インターネットの出入り口で不正な通信をブロックするファイアウォール機能を、専用機器なしでサービスとして利用できる仕組みです。[

これらのセキュリティ機能により、教育現場のネットワークやクラウドサービスの安全利用が実現できます。

主要SASE製品の特長

SASEのサービスはさまざまな企業から提供されており、それぞれに異なる特徴や強みがあります。ここでは、代表的なSASE製品について主なポイントをわかりやすくご紹介します。導入を検討する際の参考情報としてご活用ください

主要SASE製品の特徴

SASEの導入を検討する際には、どのサービスや製品を選ぶかが大きなポイントになります。各ベンダーが提供するSASE製品には、それぞれ特徴や強みがあります。ここでは、主な製品の特長と適用例をご紹介します。

  • Palo Alto Networksが提供するクラウドベースの統合SASE(Secure Access Service Edge)ソリューションです。従来の次世代ファイアウォール技術とゼロトラストアクセス(社内外問わずユーザーや端末のアクセス権を厳格に管理する仕組み)が強く統合されており、大規模施設でも対応可能な堅牢さが特徴です。日本では豊中市が教育現場に導入し、既存のLGWAN環境を活かしつつ柔軟なゼロトラスト環境の実装に成功しています。

  • FortiOSを中核とした統合オペレーティングシステムで、SD-WAN、SSE、ZTNA(Zero Trust Network Access)をまとめて提供。AIを活用した即時脅威対応も強みです。2025年のGartner社SASEプラットフォーム評価で「リーダー」と評価されています。

  • 完全クラウド型のSASEプラットフォームで、SD-WAN(複数拠点を安全かつ効率的に接続するネットワーク技術)とセキュリティを統合。操作性や運用効率の高さが評価されています。2025年にはGartner社の評価で「リーダー」に選ばれました。日本ではSB Technologyと提携し、MSASEサービスを提供中。JUKIなど製造業での導入事例もあり、実運用での信頼度が高いです。

  • Netskopeは、クラウド中心のセキュリティに強みを持つSASEソリューションです。Gartner社の調査「Magic Quadrant」というIT製品評価レポートで、SASEとSSE(Security Service Edge)の両方の部門で「リーダー」と評価されており、複数の利用シーンで高い評価を獲得しています。
    日本でもユーザーグループ(JZUG)が活動しており、NECによるグローバル規模の導入事例もあることから、教育や自治体での採用可能性も高いです。

製品名

メーカー

特徴

適用例

Prisma Access

Palo Alto Networks 

・クラウドベースの統合SASEソリューション

・高い可用性とスケーラビリティ

・教育関係

・大規模なリモートワーク環境を持つ組織

・高いセキュリティ要件を持つ組織

Fortinet Secure SASE

Fortinet

・FortiOSを中核とした統合オペレーティングシステム

・SD-WAN、SSE、ZTNAの一括提供

・セキュリティとネットワークの統合を重視する組織

・AIによる脅威検出を求める組織

・高いパフォーマンスと信頼性を必要とする組織

Cato SASE Cloud

Cato Networks

・完全クラウド型のSASEプラットフォーム

・SD-WANとセキュリティの統合

・複数拠点を持つ組織

・シンプルで効率的な運用を重要視する組織

Netskope One

Netskope

・SSEとSASEの両方でGartner Magic Quadrantのリーダー

・クラウド中心のセキュリティに強み

・グローバル展開している組織

・クラウドサービスを多用する組織

・高度なデータセキュリティを求める組織

教育現場での活用イメージ

例えば、自治体や教育委員会でSASEを導入すると、次のような具体的な活用が想定されます。

  • 校務システムや学習支援ツールへの安全なアクセス
    SASEは、クラウド上の管理システムや校務システム、学習系システムなどへのアクセスを一元的に管理します。利用者や端末ごとに「許可」「制限付き許可」「禁止」など細かなアクセス制御ができるため、安心して校務や学習支援の各種システムを活用できます。

  • 端末や場所を問わず、教職員・生徒の通信をまとめて管理
    教職員用端末や可動式コンピューターなど、学校・市庁舎・自宅・外出先などさまざまな場所からのアクセスを一元管理できます。SASEは端末認証やシングルサインオン(SSO)にも対応し、利用者ごとのアクセス権限管理が容易です。

  • クラウドサービスの安全利用と情報漏洩対策
    クラウドサービスの利用状況を可視化し、アクセス制御やログ管理(SIEM)、URLフィルタリング、DNSフィルタリングなどの機能で、情報漏洩リスクを抑えながら安全なクラウド活用が可能です。

  • ネットワークの安全な運用
    ネットワーク経路の最適化や外部接続の管理、VPNの活用などにより、障害発生時も迅速な対応や安全なバックアップ体制を整えることができます。

  • 端末上のセキュリティ対策
    ウイルス対策や脆弱性対策、データ暗号化、多要素認証など、教職員用端末や持ち出しPCのセキュリティもSASEの仕組みで統合的に管理できます。

SASE導入のメリットと効果

SASEを導入することで、教育現場ではネットワークのパフォーマンス向上や管理の効率化、コスト削減など、さまざまな利点が得られます。学校や教育委員会の現場でSASEがどのように日々の運用を支え、具体的にどのような価値をもたらすのかを、主なポイントに整理しながら分かりやすくご紹介します。

パフォーマンス向上と一元管理

SASEを導入すると、ネットワークの通信経路が自動で最適化されるため、遅延や通信速度の問題が減り、快適な利用環境になります。これは「SD-WAN」という技術によるもので、複数のインターネット回線や拠点を賢く使い分けて、より速く安定した通信を実現します。

また、セキュリティ機能をまとめて管理できるため、従来のように複数のシステムを個別に運用する手間が減り、管理が簡単になります。

コスト削減と運用効率化

SASEでは、ネットワークやセキュリティの管理を一つのサービスでまとめて行えるため、管理担当者の負担が減り、コストも抑えやすくなります。多くのSASE製品では、利用状況をリアルタイムで監視する機能や、自動で異常を検知する機能が標準で備わっています。

SASE導入時のポイント

SASEの導入を成功させるためには、現場ごとのニーズや運用体制に合わせて、計画的に進めることが重要です。機能選定や導入計画の立て方、サービスの信頼性や運用体制など、導入を検討する際に押さえておきたいポイントをまとめてご紹介します。

機能選定と導入計画

SASEには多様な機能があり、すべてを一度に導入する必要はありません。教育委員会や学校ごとのセキュリティ要件や運用体制に合わせて、必要な機能を計画的に選定することが重要です。段階的な導入や既存システムとの連携も検討しましょう。

導入計画が不十分だと、運用負荷やコストが逆に増加する可能性もあるため、事前の検証と計画が不可欠です。

サービス信頼性と運用体制

SASEはネットワークやセキュリティを一元的に管理するため、万が一障害が発生した場合は影響が広がる可能性があります。サービスの信頼性や安定性を十分に検討し、バックアップ体制や予備の仕組みを整えることが大切です。また、ベンダー選定時にはサポート体制や運用ノウハウの有無も確認することが大切です。

今後の展望とまとめ

クラウドサービスやモバイルデバイスの普及に伴い、SASEの重要性は今後も高まると予想されます。自治体や教育委員会、そして教育関連ベンダーにとって、SASEは安全・快適な教育環境づくりの基盤となる考え方です。今後は複数ベンダーのサービスを組み合わせた運用や、最新技術・トレンドへの継続的なキャッチアップが求められます。本記事が、教育現場のDX推進とセキュリティ強化に向けたSASE理解の一助となれば幸いです。

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