クラウド移行戦略の検討と、AWSの移行パス「7R」
クラウドへの移行を社内や組織で本格的に計画し始めたけれど、検討すべきことが多すぎて、どこからどのように進めたらいいか迷う方も多いかもしれません。本記事では、大まかなクラウド移行ステップと、一番最初の段階で重要な「目的に応じた移行方法の検討」についてご紹介します。
目次[非表示]
- 1.オンプレからクラウドへの移行ステップ
- 1.1.Assess 評価
- 1.2.Mobilize 移行準備(計画化・基盤化)
- 1.3.Migrate & Modernize 移行& モダナイズ
- 1.4.Operation & Optimization 運用&最適化
- 2.移行戦略とは
- 3.AWSの移行パス「7R」で移行方法を検討する
- 3.1.移行パスは大きく3つに分けられる
- 3.2.各移行パスの詳細
- 3.2.1.①リタイア (Retire) 統合や廃止
- 3.2.2.②リテイン (Retain) オンプレミス環境に残す
- 3.2.3.③リロケート (Relocate) VMWare Cloud on AWSを利用して既存アーキテクチャをそのまま移行
- 3.2.4.④リホスト(Rehost) 現行のアーキテクチャをそのままAWSに移行
- 3.2.5.⑤リパーチェス (Repurchase) SaaSソフトウェアへの切り替え
- 3.2.6.⑥リプラットフォーム (Replatform) マネージドサービスを活用
- 3.2.7.⑦リファクタリング (Refactor) クラウドネイティブな機能やサーバーレスアーキテクチャへの変更
- 4.移行パスの選択
- 5.おわりに
- 5.1.参考にしたページ
- 5.2.KyriosのVM移行サービス
オンプレからクラウドへの移行ステップ
AWSでは、クラウド移行ステップとして次の3つのフェーズを定義しています。
- Assess 移行の検討と価値の評価
- Mobilize 移行計画の立案と準備
- Migrate & Modernize 移行とモダナイズの実行
これに加え、移行後のフェーズとして、次のステップも念頭に置いておく必要があります。
- Operate & Optimize 運用と運用最適化
Assess 評価
移行を具体的に検討するにあたり、クラウド移行の目標を確認し、現在使用しているシステムとクラウド移行後のコストの試算を行います。移行の目的や目標によって、構築するクラウドシステムのレベル感が異なってきます。コストの試算は、プロジェクトの規模を決めたり、組織内での合意形成を得るための説得材料としても重要な役割を果たします。
本ステップについては、後述の「移行戦略とは」「AWSの移行パス 7R」でも詳述します。
Mobilize 移行準備(計画化・基盤化)
このフェーズでは、より具体的な移行計画を策定します。Assessフェーズで決めた方向性をもとに、要件を定義し、システムの依存関係を把握し、AWS環境の設計・構築を行います。また、社内のメンバーのクラウドスキル習得のためのトレーニングなども実施します。
Migrate & Modernize 移行& モダナイズ
実際に移行を行うフェーズです。AWS環境への切り替え、移行後システムの検証やデータ移行の確認、最適化を行います。移行にあたっては、実際にはAWSによって提供されている移行関連サービス(AWS Application Migration Sevice, AWS DataSyncなど)などを使用し、大部分の移行プロセスを自動化することが可能です。
Operation & Optimization 運用&最適化
こちらは、AWSが提唱する3つの移行ステップには入っていませんが、重要な項目です。クラウド移行したシステムをどのように運用するのか?という運用計画も見据えて移行を進める必要があります。
モダナイズを行う際には、IaCのコード管理やデプロイのルール作り、CI/CDパイプラインの運用など、クラウド独自の運用が求められることもあり、場合によってはチーム体制をシステムに合わせる必要があります。
また、クラウドサービスは日々新しいサービス・機能がリリースされることがあります。一度始めた運用も、定期的に見直し最適化することで、コストメリットなども期待できます。
移行戦略とは
クラウド移行における移行戦略とは何か?
何のために、何を、何に、いつまでに、どの様に移行するのか
を決めておくことです。
つまり、できるだけ具体的に、詳細に、クラウド移行の方法や移行後の姿を検討し、決定し、合意することを指します。
明確な戦略がないとプロジェクトが混乱し、停滞する可能性があります。しっかりと戦略を立てることで、クラウド移行を「成功」させることができます。
移行戦略の主要要素
移行戦略には次の要素があり、それぞれを十分に検討する必要があります。また、それにより次に紹介する「移行パス」の選択も変わってきます。
目的・対象
クラウド移行の目的にはさまざまあります。「コスト削減」「リソース最適化」といった基本的なクラウドメリットを受けることが目的なのか。もしくは、より高度なデータ活用やデジタルトランスフォーメーションを実現するために、最適化されたデータプラットフォーム、トランザクション、またDevOpsを実現できる体制を作ることが目的なのか。それぞれ、組織の文化やモチベーション、対象としているシステムの状況によっても変わってきます。
期限
現実的に検討する段階に入ることが多いのはこのパターンかもしれません。 サービスリリース時期や、基幹システムであれば組織変革のタイミングといった場合もあれば、データセンターの閉鎖やハードウェア/ミドルウェアのEOSL(End of Service Life)が期限となる場合があります。
AWSの移行パス「7R」で移行方法を検討する
移行戦略で検討した、「目的・対象」「期限」をもとに、実際にどのように移行を実施するのか、移行後のシステムをどのレベル感にするのかを決めていきます。
その際には、主に7つのパスがあり、これをAWSでは「7R」と提唱しています。すべてのパスが「R」から始まることに由来しています。
移行パスは大きく3つに分けられる
各移行パスのイメージを簡単に表した図です。
7つパスは、大きく次のような3つに 分けることができます。
- リタイア、リテイン:検討の結果、「クラウド移行しない」と決定したもの
- リロケート、リホスト:既存システムのアーキテクチャは大きく変えず、単純にクラウド上に移行する「クラウドリフト」
- リパーチェス、リプラットフォーム、リファクタリング:ソフトウェアの切り替えやクラウドのマネージドサービスを活用するなど、クラウドスマートなシステムへと変革する「クラウドシフト」
各移行パスの詳細
それぞれの移行パスについて、簡単にご紹介します。
①リタイア (Retire) 統合や廃止
企業合併やサービス提供終了など、システムを廃止するパターンです。また、当初は移行対象に含まれていたが、アセスメントの結果、実際に使われていないことや、他のシステムと重複していることが分かった際にも当てはまります。適切に廃止することで、ライセンスや維持運用のランニングコストを節約します。
②リテイン (Retain) オンプレミス環境に残す
こちらは「移行を行わない」という意思決定をしたものです。アプリケーションコードの書き換えでコストがかかることや、クラウドに上げることができない特殊な環境などが当てはまります。
また、最終的にはクラウド移行をしていくが、一旦優先度が低いため保留することを決定するパターンもあります。
③リロケート (Relocate) VMWare Cloud on AWSを利用して既存アーキテクチャをそのまま移行
VMwareをオンプレで使用している場合に、なるべく環境に変更を加えず、そのまま移行したい場合に採用します。VMware運用の知見をそのまま利用したい、とにかく迅速に移行したい、といった場合が当てはまります。「VMware Cloud on AWS」を使用してほぼ自動に移行を完了させることができます。
④リホスト(Rehost) 現行のアーキテクチャをそのままAWSに移行
こちらも③同様、OSやアプリケーションなどなるべく変更を加えず、移行するクラウドリフトです。期限が迫っているため移行にかかる時間をかけたくない、大規模移行でなるべくリスクを取りたくない、などといった場合に選択されます。
⑤リパーチェス (Repurchase) SaaSソフトウェアへの切り替え
「再購入」を意味するリパーチェスは、移行元アプリケーションやサービスをSaaSに切り替えることを指します。サービスの仕様に合わせてインタフェースや自社の業務プロセスの変更が必要になるケースもありますが、自社運用やセキュリティの運用負荷を軽減することができます。
⑥リプラットフォーム (Replatform) マネージドサービスを活用
データベースなど、プラットフォームをマネージドサービス上に移すことを指します。アプリケーションには変更を加えません。例えばデータベースをAmazon RDSに移行するなどによって、部分的にクラウド最適化を行います。
⑦リファクタリング (Refactor) クラウドネイティブな機能やサーバーレスアーキテクチャへの変更
クラウドを最大限活かす方法に変更するため、フルマネージドサービスの利用や、マイクロサービス化によって、クラウドサービスの俊敏性や拡張性などを取り入れることができます。
移行パスの選択
移行パスは、移行戦略をベースに決定する
AWS Black Belt Online Seminar 移行戦略(7R)のスライドを元に作成
7つのパスのうち、クラウド移行を行わない「リタイア」「リテイン」を除く5つを、「ビジネス価値」「移行のコスト・リスク」の2軸にとってマッピングをすると、図のようになります。
「クラウドリフト」にあたる「リロケート」「リホスト」は、比較的低コスト・リスクで移行を実現できますが、得られるビジネス価値は、クラウド化で得られる効果の基本的な範囲となります。
「クラウドシフト」に当たる残りのパスは、「リパーチェス」→「リプラットフォーム」→「リファクタリング」と段階を追って、効果/コスト・リスクが高まっていきます。
どれを選ぶべきかは、前述の移行戦略の「目的」「期限」を意識し、決定していく必要があります。
ゆくゆくは「リファクタリング」を目指したいが、今は移行プロジェクトに割ける時間が限られているといったケースでは、プロジェクトのフェーズを分け、まず第一段階で「リホスト」でクラウドに上げてから、次のフェーズでクラウド最適化を目指すといった選択も現実的です。
おわりに
今回はクラウド移行戦略に基づいた「7つの移行パス」を中心に、ご紹介しました。クラウド移行の検討の参考になれば幸いです。
参考にしたページ
移行ステップと7Rについて、わかりやすく解説されています。動画詳細ページより、配布資料PDFもダウンロード可能です。
移行戦略についてまとめられている記事です。
2019年の「AWS Summit Bahrain」 にて行われたセッションの 「Migration, Disaster Recovery, & Business Continuity in the Cloud (移行、ディザスタリカバリ、およびクラウドにおける事業継続性)」セッションの概要を、グラレコを使って解説されている記事です。キャッチ―で分かりやすいです。
KyriosのVM移行サービス
Kyriosでは、オンプレからクラウドへの移行をサポートしています。移行の目的から最適な手段・アーキテクチャの特定・ご提案、運用設計、構築作業、運用サポートと、お客様のクラウド利用のスタートを実現します。詳細は下記のページ、もしくはお問合せください。